「地下水」と聞くと、山に積もった雪がしみ込んで、地面の下を川のように流れている……そんな漠然としたイメージを持っていませんか?
この記事では、地下水がどこから来て、地面の下をどのように流れ、どうやって井戸水や湧き水につながるのかを、日本地下水学会や国(内閣官房 水循環政策本部・環境省・国土交通省)の公開資料を調べて分かったことをもとに整理します。
この記事のポイント
地下水とは?雨や雪がしみ込んだ水
地下水の正体は、地上に降った雨や雪
地下水は、地面の奥から自然に湧いてくる特別な水ではなく、もとをたどると地上に降った雨や雪です。
日本地下水学会の「疑問・質問コーナー」では、「地下水の起源は、すべて地上に降った雨や雪であり、土壌を通して地下に浸透して、砂や礫(小石)の間に溜まった水です」と説明されているためです。地下水がたまっている場所は「帯水層(たいすいそう)」と呼ばれ、その深さは地域によってさまざまですが、通常は数mから200〜300m程度とされています。
同じ回答では、地下1,000m以上の深い井戸から汲み上げる温泉水も地下水の一種で、雨や雪が長い年月をかけて浸透したものだと紹介されています。また、雨が降らない日が続いても川の流れがすぐに途絶えないのは、地下水が河川水のもとになっているためです。日本では、水道の水源や個人の井戸として、約4人に1人が毎日地下水を利用しているとされています。
川の水と地下水は、ひと続きの「水の循環」
川や湖の水(地表水)と地下水は、別々の水ではなく、同じ水が場所によって呼び名を変えているだけです。
内閣官房 水循環政策本部の「地下水の基礎」では、地表水と地下水は「その時に『水』が存在している場所によって呼び方が異なるだけであり、実際には『水』として循環している一連の流れの一部で、同じもの」と説明されているためです。
同じ資料では、次のような流れが例として挙げられています。
- 山に降った雨が地面にしみ込み、地下水として流れる
- 湧き水として再び地表に出て、谷に沿って渓流や川になる
- 川が山地から扇状地に出ると、川の水の一部が再び地中にしみ込んで地下水になる(水田にひかれた水がしみ込む場合もある)
- 扇状地から平野へゆっくり流れた地下水の一部は川に流れ出し、残りは地下水のまま海へ流れ出る
「雪や雨がしみ込み、地下を通って、また川や湧き水として姿を現す」という循環のなかに、私たちが井戸で汲み上げる水も含まれているのです。
地下水はどこを、どのくらいの速さで流れる?
「地下水脈」は川のような1本の流れではない
「地下水脈」という言葉から、地面の下に川や水道管のような流れがあると想像しがちですが、実際の地下水は、砂や礫でできた地層の隙間を、層全体としてゆっくり流れています。
内閣官房の資料では、地下水は「土の中の隙間の部分に存在する水」とされ、砂や砂利など水を通しやすい地層(帯水層)を流れること、重力だけでなく水圧によっても流れ、場所によっては下から上へ流れることもあると説明されているためです。日本地下水学会も、地下水は川と同じように高いところから低いところへ流れるので「その流れを水脈と思っていただければ理解しやすい」としつつ、地層の途切れや粘土層の存在、同じ場所に複数の帯水層があることなどから、「水脈というものの姿を一口に説明するのは難しい」と回答しています。
つまり、地下水は「地下の一本の川」というより、「水をたっぷり含んだ砂や小石の層が、全体としてゆっくり低い方へ動いている」とイメージすると実態に近くなります。
流れる速さと、たどり着くまでの年数
地下水の流れは川よりはるかに遅く、山に降った雨や雪が平野の井戸や湧き水になるまでには、数年から数十年かかることもあります。
内閣官房の資料によると、川の水が流れる速さは一般に1日に1km〜数十km程度なのに対し、地下水は速くても1日に10m〜100m程度、地層によっては1日1m未満の場合もあるためです。日本地下水学会も、地表から直下の帯水層までしみ込むのはせいぜい数日〜1か月程度だが、帯水層の中を流れる速さは1年に数m〜数百mで、1km流れるのに何年もかかると説明しています。
| 水の動き | かかる時間の目安 |
|---|---|
| 川の最上流から海まで | 長くても数日程度 |
| 水田からしみ込んだ水が、近くの崖下で湧き出るまで | 数か月〜数年程度 |
| 山に降った雨が浅い地下水になり、近くの沢に湧き出るまで | 数年 |
| 山に降った雨が地下水となって低地まで流れてくるまで | 数年〜数十年 |
| 上流の山で深く潜った地下水が海岸付近に達するまで | 早くても20〜30年、50年以上の場合も |
地下水の「年齢」を調べた研究もあります。日本地下水学会の疑問・質問コーナーの回答「雨が地表から浸透し地下水になり地中を流れ、川や海に出るまでどれ位の時間がかかるのか?」では、トリチウム(放射性の水素の同位体)などを使った研究の例として、神奈川県の秦野盆地の地下水は7〜8年、富士山のふもとの湧き水は数年〜十数年かかって湧き出ていると紹介されています。私たちが今日汲み上げている井戸水は、何年も前に降った雨や雪かもしれないのです。
地下水と井戸水はどうつながる?
浅い地下水と深い地下水の違い
井戸水は地下水を井戸で汲み上げたものですが、地下には性質の違う地下水の層が重なっていて、井戸の深さによって汲んでいる地下水が異なります。
内閣官房の資料によると、地下には浅い帯水層や深い帯水層など複数の帯水層があり、その間は粘土層などの水を通しにくい「難透水層」で隔てられているのが一般的だからです。
| 種類 | どんな地下水か |
|---|---|
| 不圧地下水(浅い地下水) | 地表付近の帯水層にあり、雨や川の水が地表からしみ込んでそのまま地下水になったもの |
| 被圧地下水(深い地下水) | 粘土層などで上下を隔てられた深い帯水層にあり、水で満たされて上向きに水圧がかかっている。一般に標高の高い山地などとつながっていて、山でしみ込んだ水が平野まで流れてきている |

同じ資料では、おおむね20〜30mより浅い地下水を浅層地下水、50〜60mより深い地下水を深層地下水と呼ぶことが多いものの、明確な深さの定義があるわけではないとされています。家庭の浅い井戸は主に浅い地下水を、深い井戸は深い帯水層の地下水を汲み上げていると考えるとイメージしやすいでしょう。井戸の種類や掘り方については「井戸水とは?仕組み・水道水との違いと安全に使うための基礎知識」で解説しています。
井戸を掘ると水が噴き出すことがあるのはなぜ?
平野で深い井戸を掘ると、ポンプを使わなくても水が自然に湧き出したり、噴き出したりすることがあります。
深い地下水(被圧地下水)は山地などの高い場所とつながっていて、水源の高い標高に相当する水圧がかかっているためです。内閣官房の資料では、下流の平野部で被圧帯水層まで井戸を掘ると、水圧によって地下水位が地表面より高くなり、水が湧き出る場合があり、このような井戸を「自噴井(じふんせい)」と呼ぶと説明されています。
一方で、地下の限られた範囲に局所的にある粘土層など水を通しにくい層の上に、周りの地下水とつながらずにたまっている地下水もあり、「宙水(ちゅうすい)」と呼ばれます。宙水は雨による補給が途絶えると消えてしまう場合があるとされ、同じ地域でも井戸によって水の出方が違う理由のひとつになります。
雪が井戸水・湧き水になるまで:黒部川扇状地の例
山の雪が地下水になり、街の井戸水や湧き水になるまでの流れを具体的にイメージできる例として、富山県の黒部川扇状地があります。
環境省の「名水百選」に選ばれている黒部川扇状地湧水群の紹介ページで、北アルプスの雪から湧き水までの流れが説明されているためです。紹介されている流れを整理すると、次のようになります。
- 北アルプスの黒部奥山に降る雪は、高地のため夏になってようやく溶け、真夏の渇水期にも豊かな水量をもたらす(「高い山は、いわば自然のダム」)
- 黒部川は山を出たところで、扇頂から扇端まで13.5kmに及ぶ大きな扇状地をつくっている
- 川の水の一部は、広い扇状地の中で地下にしみ込んで地下水となり、地層を通る間に濁りなどが取り除かれる(飲めるかどうかは別で、水質検査が必要)
- 地下水は、扇状地の中ほどでは飲料水などの生活用水や工業用水として使われ、扇状地の端では湧き水や自噴水になる
- 地下水の一部は、富山湾の海底からも湧き出している

「山の雪がしみ込み、街の下を流れて、井戸水や湧き水になる」というイメージは、こうした扇状地の地下水の流れとして実際に説明されています。全国の湧き水や地下水の名所は、環境省の「名水百選」のページでも紹介されています。
地下水の性質と付き合い方
地下水の味や成分は、流れてきた地層で決まる
地下水に含まれるミネラルなどの成分は、地下水が流れてきた地層によって変わります。
内閣官房の資料によると、地下水を汲み上げて市販されているミネラルウォーターに含まれるカルシウムやマグネシウムなどは、地下水が長い時間をかけて地中を流れる間に、岩石や鉱物と接触して取り込まれたものだと説明されているためです。同じ資料では、一般に、浅いところを短い時間で流れてきた地下水はカルシウムが相対的に多く、深いところを長く流れてきた地下水はナトリウムやカリウムが相対的に多い傾向があるとされています。
黒部川の水が「硬い岩の間を流れるため」カルシウムや鉄などの成分が少ない軟水だと紹介されているのも、地層と水質の関係を示す例です。ミネラルウォーターや天然水の違いについては「ミネラルウォーターとは?水道水・天然水との違い、硬水軟水の選び方」「天然水とは?ミネラルウォーター・水道水との違いと選び方の基礎知識」で解説しています。
汚れや汲み上げすぎの影響は長く残る
地下水は流れがゆっくりな分、一度汚れたり減ったりすると、元に戻るまでに長い時間がかかります。
内閣官房の資料では、川に汚れが流れ込んだ場合は数日程度で流されるのに対し、地下水に入った汚れの影響は数年〜数十年かけて徐々に下流へ伝わる場合があると説明されているためです。また、地下水は流れている量に比べて地下にたまっている量が大きい一方、流れている量をはるかに超えて大量に汲み上げると、地下水位の低下や周りの井戸への影響、地盤沈下や塩水化などが起こる場合があるとされています。
地下水は目に見えませんが、地域で共有している限りある資源です。井戸水を使う場合は、こうした性質を知ったうえで、水質検査なども含めて大切に付き合っていくことが大切です。
自分の地域の地下水を調べるには
自分が住んでいる地域の地下にどんな地層や地下水があるのかは、国が公開している地図で調べることができます。
国土交通省の「国土調査」のホームページでは、深い井戸を掘ったときに得られた地質や帯水層、水質などの情報を集めた「全国地下水資料台帳」や、地下水の分布状況などを地図にまとめた「地下水マップ」が公開されており、ウェブ上の地図で閲覧できるためです。地域の地下水の様子を知る手がかりとして活用してみてください。
よくある質問
地下水と井戸水の違いは何ですか?
地下水は地下の帯水層にたまって流れている水そのもので、井戸水はその地下水を井戸で汲み上げたものです。同じ地下水でも、湧き水として自然に地表に出てくるものもあります。井戸水の特徴や注意点は「井戸水とは?仕組み・水道水との違いと安全に使うための基礎知識」で解説しています。
地下水はそのまま飲めますか?
地下水は地層の中でろ過される一方、周辺の環境によっては細菌や硝酸態窒素などが含まれることがあり、水道水のように公的な水質管理が行われているわけではありません。井戸水を飲用に使う場合は、定期的な水質検査で安全を確認することが大切です。検査の方法や費用は「井戸水の水質検査はどこで受ける?費用・項目・キットの違いを解説」で解説しています。
地下水はいくら汲んでもなくならないのですか?
地下水は雨や雪で補給されますが、流れがゆっくりで、一年に入れ替わる量は限られています。補給される量を大きく超えて汲み上げると、地下水位の低下や地盤沈下などにつながる場合があるとされており、無限に使える水ではありません。
地下水が何年前の雨なのかは分かるのですか?
日本地下水学会によると、トリチウム(放射性の水素の同位体)などを使って、地下水が雨としてしみ込んでからの年数(滞留時間)を調べる研究が行われています。先に紹介した秦野盆地の7〜8年、富士山麓の数年〜十数年という例も、同学会の回答でこうした研究の例として紹介されているものです。
まとめ:地下水は、雨や雪がゆっくりと旅をしている水
この記事では、地下水の正体と流れ方、井戸水や湧き水とのつながりを、公開されている一次情報をもとに整理しました。
地下水は、山や平地に降った雨や雪が地面にしみ込み、砂や小石の層の隙間を何年もかけてゆっくり流れている水です。その途中で井戸から汲み上げられたり、湧き水として地表に出てきたりしています。普段は目に見えない足元の水も、雪や雨から続く長い旅の一部だと知ると、井戸水や湧き水の見え方が少し変わるかもしれません。

